アイルランド政府商務庁:政府機関がいかにしてフィンテック産業の原動力となったのか

フィンテックの投資家は、なぜ政府機関であるアイルランド政府商務庁の投資を注意深く見守るべきなのでしょうか。その理由をアイルランド政府商務庁のフィンテック担当シニアデベロップメントアドバイザーであるEoin Fitzgeraldに聞いてみました。

アイルランド政府商務庁は世界最大のフィンテック投資団体です。Y Combinatorはスタートアップマシンかもしれませんが、アイルランド政府商務庁はフィンテックファクトリーだと言えます。

アイルランド企業の事業支援と国際化を担当する政府機関であるアイルランド政府商務庁は、世界最大かつ最も成功しているフィンテック投資団体です。

アイルランド政府商務庁は、株式投資を随時行うことによって1,500社以上から構成される企業ポートフォリオを積極的に支援しています。それらの企業は、ほぼすべての業種にわたっており、中小企業と大企業、および「将来性の高いスタートアップ(HPSU)」と定義されている企業が含まれています。

2017年には、200社以上の企業に対して3,000万ユーロを超える投資を行っており、そのうちの90社はHPSUとなっています。

アイルランド政府商務庁
フィンテック担当シニアデベロップメントアドバイザー Eoin Fitzgerald

アイルランド政府商務庁が支援している企業の中には、金融サービスを専門とする企業や、金融サービス業へのICTソリューションの販売に重点を置いている企業もありますが、200社以上がフィンテック企業であり、そのうちの約半数がスタートアップです。

アイルランド政府商務庁の投資活動について把握していただくため、世界第1位のフィンテック投資団体であるY Combinatorと比較してみましょう。同社はニューヨーク・タイムズによって「スタートアップマシン」と表現されたことでも有名であり、昨年の投資実績は29社です。

世界第2位のフィンテック投資団体は、23社の実績を誇るアイルランド政府商務庁です。

これは著名なDigital Currency GroupAccel Partnersなどを上回る実績であり、両社はそれぞれ19社を支援しており、IT産業の象徴であるシリコンバレーに拠点を置く500 Startupsが17社、ベンチャーキャピタル大手のSequoiaが15社となっています 。

これは著名なDigital Currency GroupやAccel Partnersなどを上回る実績であり、両社はそれぞれ19社を支援しており、IT産業の象徴であるシリコンバレーに拠点を置く500 Startupsが17社、ベンチャーキャピタル大手のSequoiaが15社となっています 。

どちらかと言えばむしろコインの両面のようなものであり、アイルランド政府商務庁の業績によって明確に示されている事実です。10年にわたり、アイルランド政府商務庁のフィンテック関連のROI(投資対効果)は業界標準をはるかに上回っています。

Fexcoに始まる決済事業の系譜

アイルランドにおけるフィンテックの系譜を遡ると、その起源は1981年に設立された国際決済企業Fexcoに辿り着きます。

現在、アイルランド政府商務庁のフィンテック専門家チームは、構成員2名のスタートアップから成熟段階にある従業員500名の大企業まで、業界のすべての企業に対して他を圧倒する深いナレッジを提供しています。

アイルランド政府商務庁は、アイルランドが長きにわたって優れた国際的評価を確立している食物についても同様の包括的アプローチをとっています。

アイルランド政府商務庁が積極的かつ中心的な役割を果たすにつれて、アイルランドのフィンテックに関する評判は高まっています。アイルランド政府商務庁の活動範囲は、金融サービス産業の成長を促進するためのアイルランド「政府全体」としての取り組みであるIFS2020などの手段を通じた国策への貢献から、有望なフィンテック企業の株式の積極的な取得までに及んでいます。

2016年にフィンテックポートフォリオで10億ユーロの収益を計上

2016年には、200社以上のフィンテック企業から構成されるアイルランド政府商務庁のポートフォリオは10億ユーロを超える収益を生み出しました。このことは、アイルランドにとって極めて大きな成功事例ですが、さほど知られていません。世界各国のフィンテック投資団体は、アイルランド政府商務庁が支援している企業は有望株としてのお墨付きであることを認識すべきでしょう。

こうした企業は、必然的に世界的な注目を集め、かなり早い段階から世界中の市場で活躍することになります。

また、アイルランド政府商務庁の取引実績の経験も企業を支援する上で大変役立ちます。

平均的なベンチャーキャピタルの場合、フィンテックへの投資は年間で2件か多くても3件です。一方、500 StartupsやY Combinatorといった大手ベンチャーキャピタルは2014年から2017年の間にそれぞれ105件と102件の投資を行っており、アイルランド政府商務庁は85件の実績を持っています。

アイルランドでフィンテックが発達している理由

人口450万人のアイルランドのような小国が、フィンテック産業育成のための豊かな土壌となっているのはなぜでしょうか。その理由として、アイルランド独自のいくつもの有益な環境が挙げられます。

第一に、アイルランドのフィンテック産業は非常に協調的なカルチャーの恩恵を受けています。起業エコシステムには珍しいことですが、このような協調的アプローチには政府や州当局の大幅な支援が含まれています。フィンテックが国家的優先課題としてとらえているためです。

テクノロジー業界と国際金融サービス業界屈指の大手企業

アイルランドには非常に多種多様な国際企業が集まっているという点もメリットとなっています。Facebook、Google、Amazonなど、世界トップ10のテクノロジー関連企業のうち9社がアイルランドに拠点を置いています。それがフィンテック(Fintech)の「Tech(テクノロジー)」の側面です。

また、アイルランドには、バンクオブアメリカ・メリルリンチからバークレイズ三井住友まで、国際金融サービス業界屈指の大手企業数社も拠点を置いています。アイルランドは世界第4位の金融サービス輸出国です。それがフィンテック(Fintech)の「Fin(金融)」の側面です。

アイルランドにはそれらの国際的なテクノロジー関連企業や金融サービス関連企業の拠点がありますが、それらの企業のいずれもアイルランド国内市場では競合していないため、極めて優れたレベルでの協業を可能にしています。

以上のことは、専門知識を有する人材を確保する上で他を凌駕する能力もアイルランドのフィンテック企業にもたらしています。アイルランドのフィンテック企業やレグテック企業の創設者の多くは、業界経験が豊富であり、上級職としての経験も有しています。

さらに、アイルランド政府商務庁が積極的にそれらの企業を支援しています。アイルランド政府商務庁は、被投資企業の経営への参加や他の投資団体が求める見返りを求めませんが、他の投資団体と同様に、有望で成長力がある国際企業を支援することを目指しています。

私たちは、そのために日々取り組んでいます。アイルランド政府商務庁ほどの規模で優れたフィンテック企業を育成している機関は、世界中どの国を探しても存在しません。Y Combinatorはスタートアップマシンかもしれませんが、アイルアンド政府商務庁はフィンテックファクトリーなのです。